ビール - よもやま話 –

別段に不調があったわけではないが、私の健康を心配する家内にすすめられ、昨年、人間ドックでの検査を受けた。丸3日間かけて体の隅々まで徹底的な検査を受け、さすがにここまでやれば何か見つかるだろうなと覚悟をしていたが、結局何一つ悪いところが見つからなかった。

大腸内視鏡検査医師曰く、「ポリープひとつない極めて健康な大腸です。少なくともむこう数年間は内視鏡検査の必要はありません。」胃内視鏡検査医師曰く、「非常に健康な胃です。」内科医曰く、「サラサラの最高の血です。」 PET−MRI、PET−CT、認知症検査、すべての腫瘍マーカー…。どこにも問題がなかった。

ビール会社の社長であり、ビールの国際審査員として日夜ビールを飲み続けている私が、医師たちが困るほど健康体なのである。炭水化物ダイエットなどの影響もあり、また、痛風に悪いこともあってこのところ健康に関してビールはどうも分が悪いが、実はビールは健康に悪いことばかりではなく、むしろ健康の増進に一役も二役もかっている。今回はビールと健康について書いてみよう。

そもそもビールは誕生からしてほぼ完全食であった。ビールが誕生したばかりの時代、古代エジプトでは、ピラミッド建設の給料はパンとビールで支払われていたことを知っている人もいることだろう。酵母を含んだビールには、豊富なアミノ酸とビタミン類が含まれている。特に飲酒時に激しく消費されるビタミンB群を豊富に含んでいる。また、古代エジプトのビールは、野生酵母と野生乳酸菌の混合発酵によりできたビールであったはずだ。したがって乳酸菌による体内フローラの調整力も加わり、結果的により素晴らしい健康増進作用を持った飲料だったはずである。当時のピラミッド建設の労働者たちはパンとビールさえあれば、ほかに何もにしなくても当面は健康的な体を維持できたはずだ。もっとも当時のビールは現在のようにホップは使われていないので、現代のビールのようにホップによる健康増進・美容効果は期待すべくもないが、それでも、この当時のビールは素晴らしい食品であったことは間違いない。

現代のビールにはホップが使われている。ビールのあの爽やかな苦みと香りはホップによるところが大きい。近年、ホップの成分には多様な効果が発見されているが、中でも特筆すべきは、アルツハイマー病の発症を抑えることであろう。

ホップの成分であるα酸は麦汁の煮沸時にイソα酸に異性化され苦みを増す。このイソα酸は、脳内の唯一の免疫細胞であるミクログリア細胞を活性化し、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβを脳から除去することでアルツハイマー病の発生を抑制することがわかってきた。

ただ、どれだけ健康にいいものでも飲みすぎは禁物である。そこのところは私も肝に銘じてビールとともにこの夏を乗り切りたい。

 

鈴木 成宗
有限会社 二軒茶屋餅角屋本店
代表取締役社長
博士(学術)

伊勢角屋麦酒WEB

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